現代のベートーヴェン演奏

第9のシーズンだが、ここ30年くらいのつまらない最近の演奏の代表がこれ。ピリオド奏法等の影響もあるのだと思うが、小さくまとまっちゃって、上手いけど、あんまり面白くない。シャイーの指揮姿は、雄っぽくって華やかだけど、音楽が全然それに釣り合ってない感じ。

https://www.youtube.com/watch?v=-suf9BL9xRA&fbclid=IwAR3mhukqYdmrcgJItmqhab7IHc5G6OqWEd0CNyEg_Xt_N9eLUx3r7gKOzDE

 

そんな中で、(私に言わせると)健闘しているのは、やはりバレンボイム。昔からフルトヴェングラーの真似ばかりしているといわれていて、この第9も、出だしのだんだん怪物が立ち上がってくるようなクレッシェンドとか、フィナーレの高揚した雰囲気など、傾向としては、フルトヴェングラーのものに似ているように思うけど、完全に彼の個性として昇華しているように思う。やはりベートーヴェンのシンフォニーは、大編成でバァーンとやっている演奏が自分は好き。

フリチャイのこと

ハンガリー出身の指揮者フリチャイは、若くして白血病で亡くなったので随分昔の人のような気がしますが、1914年生まれということはショルティジュリーニと同じ歳。仮に長生きしていれば、実演に接する機会があったのかもしれず残念です。録音がたくさん残っているのが救いですが、モーツァルトのレクイエムなど、よく歌い、どこをとっても暖かく、かつ、瑞々しく、本当に素晴らしい演奏です。ドイツ・グラモフォンという会社は、50年代半ばから、クラシック音楽については、DECCAやEMIといったライバル社とのし烈な競争の中で、徐々に確固たる地位を気づいていきます。50年代に、カラヤンだけでなく、まだ若手の一人だったフリチャイと専属契約を結んでいるあたり、その選球眼の的確さが、その後の発展を支えたという感じがします。どの分野でも、物の本当の良し悪し、将来の可能性についての鑑定眼が、成功し、生き残っていく上での決め手のような気がします。

https://www.facebook.com/deutschegrammophon/photos/a.325407975856/10152423754885857/?type=3&theater

藤田真央のモーツァルト

数年前にNHKFMでやっていた、藤田真央とアンサンブル金沢モーツァルト・ピアノ協奏曲20番の演奏会の録音を聴いた。

私ごときが今更言うまでもなが、藤田真央が凄い。古楽風演奏なのか、割とガサガサした音質のオケの前奏の後、ピアノが入ってくるや、その柔らで美しい音色に耳が釘付けになる。

以前聴いたシューマンのピアノ協奏曲も素晴らしかったが、モーツァルトになると、モーツァルトの天才と藤田真央のそれが重なり合って、作曲家が降霊してピアノを弾いているような落ち着かない気分にさえなる。

カデンツァも誰のだろう、この分野詳しくないせいか、日頃聴き慣れているものとは非常に違うものだったが、これまた凄かった。

確か拠点をベルリンに移したと聞いたが、これから先が本当に楽しみ。天才なだけでに、健康にだけは気を付けて、いつまでもニコニコと楽しそうにピアノを弾き続けてほしいと思う。

maofujita.com

カルロス・パイタ

指揮者カルロス・パイタについて、正面から論じ、評価する1981年頃のワシントン・ポスト紙の批評。

日本ではフルトヴェングラーエピゴーネンとしてしか見られておらず、というより、今やほとんど忘れられているが、たとえば彼のベートーヴェンは、クライバーのをもっと骨太にしたような堂々たるもので、本当に素晴らしい。

幸い結構録音も残っているので、いずれ再評価・ブームが来ないものか。

 

www.washingtonpost.com

 

バーンスタイン・ウィーンフィル ブルックナー第九

最晩年のバーンスタインの様子についての興味深いオーラルヒストリーを発見。このDVDのユーザーレビューの上から4つ目、宇野広報氏(このペンネーム!)のもの。

この方がブルックナーのビデオ収録に聴衆として立ち会った前後の出来事が記されている。

商品となったビデオでは分からないが、この時点で巨匠の健康は相当衰えていたこと、そのことが人前では常に格好良いスターでいたかった本人のプライドを酷く傷つけていたことが分かる。

(”ちょうど舞台近くの席にいた私と振り返ったバーンスタインと目が合い、彼は「笑っているような事態ではない」といわんばかりの、背中も凍りつくような厳しい目でにらみつけたのを未だに忘れられません。”)

その上で凄いと思うのは、残された録音のCDを音だけで聴く限りは、衰えは何ら感じられない、凄いエネルギーのブルックナーであるということ。真のプロの仕事というか。

それもこの年の7月にはいよいよ無理となって、東京での同じブルックナーの九番の演奏会はキャンセルとなり、チケットを入手していた自分にとっても永遠に幻に消えてしまうことになる。いつもいつも同じ繰り言で申し訳ないが。

 

https://www.hmv.co.jp/userreview/product/list/3475815/?fbclid=IwAR2drPkw9E43AkQ3xPZ7_yt0wWunk4M88ECOrQL8srfh9UcT6Y5OuzlQK3o

 

 

バーンスタイン・コンセルトへボウ マーラー第四

バーンスタインの晩年のマーラー交響曲4番の録音を久しぶりに聴いた。世間では60年代にニューヨークフィルと入れた録音の方が評判が高く、晩年の全集の中ではこの録音はなぜか影が薄いが、改めて聴いて、ありとあらゆる表現をやり尽していて見事という他ない。

この録音では、終楽章の声楽ソロに、通常なら成人女性のソプラノが歌うところに、ボーイソプラノを起用している。

テルツ少年合唱団員のヘルムート・ヴィテックという人だが、巨匠のマーラー全集録音に起用されるだけあり、さすがに安定感ある歌いぶり。

それは声楽の技術だけでなく、雀のような少年の華奢な躰(レーゲンスブルクの少年合唱団はDomspatzen(大聖堂の雀たち)と呼ばれているくらい)からの、今にも壊れてしまいそうな、いじらしい響きではなく、音域こそ高いが、おそらくは母親の背丈を超えかけたであろう、骨格もしっかりとしてきた躯体を感じる声である。

しかし、それが、かえって声変わりで失われる直前の儚さも感じさせる。これだけ見事に歌えていたのが、ある日を境に二度と同じように歌えなくなるのはどういう気分なのか。羽をもがれた天使のようで痛々しさを感じる。

このヴィテックという人、この録音の他に、アーノンクール指揮のバッハのカンタータ等にも登場するが、その後の声楽家としての活動は聞かない。

今回、グーグルで検索して初めて知ったことだが、今は南ドイツの録音技術関係の会社の共同CEOを務めているとのこと。私より2つ年下の同世代。健在なようで何より。

最初の写真はもっと幼いときと思われる。二番めの写真でバーンスタインの向かって右側の少年がWittekとのことだが、背丈は既にバーンスタインとあまり変わらないので、おそらくこのマーラーを入れた頃ではないか。

 

 

ジョナサン・コット「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」

バーンスタインの死の一年前に行われたロングインタビュー。原題Dinner with Lennyのとおり、バーンスタインコネチカットの別荘で午後3時前から真夜中過ぎまで、夕食を挟んで延々と続いた会話の録音テープを起こした記録。

もともとは1990年に「月刊朝日」にも転載された米ローリングストーン誌の短いインタビュー記事のための記録が、何らかの事情で2013年になって出版されたものらしい。

音楽面も含め、特に目新しい話、深い話はない。ただ、息子のような歳のインタビューアを相手に、無類の率直さで、ああでもない、こうでもないと語り続ける。

最後、午前2時半になり「もうお終いにしよう」と自分から言いつつ、ウィーンフィルと録音したベートーヴェン弦楽四重奏14番の弦楽合奏版のCDをかけ始めてしまうあたりの感じが何とも。かれこれ12~3年前の上司がこのタイプで、カラオケに行くとエンドレス。「もう帰らないと」とか言いつつ、いつの間にか、最後にもう1曲みたいなことになっている。始末に悪いが懐かしい。

というわけで、一般の方には全くお薦めできないが、バーンスタインのことが本当に好きな人に限っては、巨匠と飲みにいった気分になれるという意味で、お薦めの一冊。

 

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3-%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC-%E5%8D%98%E8%A1%8C%E6%9C%AC-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88/dp/4871985806/ref=sr_1_8?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%82%B5%E3%83%B3%20%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88&qid=1631277513&s=books&sr=1-8&fbclid=IwAR0V1FuJOmK08RPwAzsp8fiCDggozszWlEWyXdKZF4hr6tsEwoHf4r55OJs