カルロス・パイタ指揮のベートーヴェン第五、重心が低い響きで、本当に素晴らしいと思う。べーレンライター版とか使って、小賢しくちゃかちゃかやっている最近の演奏より、自分はよほどこっちの方が好きだ。
一般的にはほとんど無名と思うが、このアルゼンチン出身の指揮者は、80年代半ばに、フルトヴェングラー未亡人から「芸術面での後継者」といった推薦状を得たプロモーションが顰蹙を買って、最初から「際物」扱いだったが、こうして聴いてみると実に立派な演奏で、そういう先入観さえなければ、こういう重厚な演奏が好まれていた当時の日本ではよほど人気が出たと思う。
他方で、youtubeのコメントにもあるが、指揮姿が何とも素人臭いというか、高校生の学指揮みたい。そこからこれだけ堂々とした音楽が産まれるのが不思議。
もっともフルトヴェングラーの指揮姿も、残っている映像を見ると、例のラッキョウ頭を揺らしながら、夢遊病患者のように指揮台を歩き回るもので、決して格好の良いものではなかったが。その意味では後継者らしいといえるかもしれない。
バレンボイムやアラウについても感じるが、アルゼンチンやチリの方が、戦前からのドイツ音楽の伝統の流れをそのまま残しているというか、昔の京都の都言葉が地方に残っているという方言周圏論と似たようなことかなと思う。日本の朝比奈隆もそういう文脈でとらえると整合的かもしれない。