第九を聴いてこんなにスリリングな思いをするのは本当に久しぶりのこと。特に四楽章。最初のオケのみのレシタティーボの異常な雄弁さ、有名な歓喜の歌のメロディーの四重唱での各歌手の弾けっぷり。クリスマスケーキや紅白歌合戦みたいな歳末の一風物詩になってしまった第九が、音楽史上の革命のようなものだったことを思い出させます。まるで、ドラクロアの絵画に出てくる、自由の女神に導かれた民衆たちのように、歌手も奏者も猛烈な勢いでどんどん前につき進む。その後、合唱が歓喜の歌を八分の六拍子で繰り返すところとかフィナーレの速さは、あのフルトヴェングラーのバイロイトライブ並みの破天荒さ。
もちろんそれまでの楽章も鋭い譜読みで、今まで聴いたことのない音があちらこちらに。低弦の単なる伴奏音型のようなフレーズが突然意味を持って響く、その手際の鮮やかさ。
上岡さんは純粋に音楽的な意味で天才だと思うが、加えて、日本人がドイツのオケ相手にこれだけのことをやってのけるということに勇気が湧く。