「神々の黄昏」序章と第一幕  クナッパーツブッシュ・バイロイト(1958年)

晦日の今日はクナッパーツブッシュの「神々の黄昏」。

いつも感じるのが、クナの指揮するワーグナーの独特の響き。圧倒的に分厚い低音の上にどっしりと構築された音。豊饒だが、カラヤンベルリンフィルオーマンディフィラデルフィアのように磨き上げたような響きではなくて、案外に柔らかくて、やさしい木目が浮かんでいるような自然で暖かな響き。

この響きは、有名なDECCAのスタジオ録音、ウィーンフィルとのワーグナー名演集のアルバムでも、このバイロイトのライブ録音でも変わらないので、オーケストラやレコード会社・エンジニアといった録音条件の問題というよりは、明らかに「クナの音」なのだろう。

「指環」については、フルトヴェングラー・スカラの、まさに一度限りの演奏に全てをかけたような劇的な演奏にも魅かれるが、クナの悠然とした大河のような流れと暖かく重厚な響きに包まれる幸福さは他に比べるものがない。

加えて、歌手たちも、クナの指揮の下では、いつも伸び伸びと歌いやすそうに聞こえる。フルトヴェングラーのように強烈なテンポのアップダウンがないこともあるが、テンポを動かさない他の指揮者の場合でも歌手がいつも歌いやすそうかというとそうでもない。

クナの指揮ぶりをめぐっては、名ワーグナー・ソプラノのマルタ・メードルとヴァルナイが以下のように回想している:

メードル;私はあのシーン(パルジファルの第二幕らしい)で25メートル離れていたの。彼は座っていたから、見えなかったわ。そして、突然、彼が立ち上がって、見えるようになった。彼は 神みたいだったわね。彼は一本の腕を突き出し、そして、別の腕を突き出し、そして、オーケストラピットから強い波がわき起こって....。

ヴァルナイ;でも決して、声を邪魔しなかったわ。

メードル;彼が立ち上がるとき、いつも信じられないことが起こるのが見えたわ。

ヴァルナイ;そうね。彼とオーケストラは一体になっていた。

メードル;そして、あのクレッシェンド...。