ブニアティシビリのシューベルト

(2017年11月のコンサート感想)

 

ブニアティシビリと上岡敏之さんと新日本フィルとの演奏会(2017年11月11日)。メインはチャイコフスキーのピアノ協奏曲で、これについては別途書くが、アンコールで弾いたシューベルトのセレナード(ピアノ版)がとても印象的だった。

演奏会の後、改めてシュライアーが歌っている原曲(伴奏はシフ)を聴いてみたら、テンポがずっと速くて、伴奏もよりスタッカートで歯切れのよいものだった。

日頃、シューベルトの歌曲はあまり聴かないので知らなかったが、要するに、この曲は、本来は、随分と素朴な民謡調の音楽だったということか(もちろんその中にかすかに悲しさも交じっているのがシューベルトらしいが)。歌詞も、夜、男が、窓の下から、女性に愛を語りかけるという古典的な(単純な)セレナードそのもの(ひょっとしたら何か暗喩があるのかもしれませんが)。

それが、ブニアティシビリがやると、もっとずっとゆっくりして、湿った、内省的でメランコリックな音楽だったと思って、you tubeを探したらブニアティシビリの演奏があった。
https://www.youtube.com/watch?v=SlTTgJau33Q

you tubeの音質なので限界はあるものの、主旋律の音色が、ペダルの効果で滲んで微妙に変化していっている感じが聞ける。

伴奏の音型も冒頭こそスタッカートだが、歌の旋律が入ってきた後は、むしろ主旋律と一体となったくすんだ和声になる。ピアノの場合、主旋律にペダルをかける場合、伴奏だけくっきりスタッカートにできないので、編曲自体に由来する部分もあるのでしょうが、それだけではない印象。というのも、ホロヴィッツが同じくピアノ版を弾いているものがyoutubeで簡単に見つかるが、彼は主旋律(歌の部分)をかなりくっきりと大きい音で弾いているので、歌とその伴奏という原曲の構造は維持されている。それに随分と早いテンポで淡々とやっている。

それに比べると、ブニアティシビリのは、なんというか、シューベルトの元の歌曲からは離れて、ショパン短調のワルツやマズルカのような音楽のような音楽になっていて、原曲とは違った魅力をもった楽曲になっている。

ブニアティシビリは、ジャケットの写真や、映像でリスト等をバリバリ弾いている時の野生的な印象が強いが、このシューベルトでは随分違った顔を見せているように思う。

今度発売された第21番のソナタの入ったCD(アルバムのカバー写真がピアニスト本人がオフィーリアに扮していることで話題になっているもの)、最後にこのリスト編曲のセレナーデが入っている。