ベルリンフィルのデジタルコンサートホールが無料開放されている機会に、ペトレンコの公演をいくつか見る。
就任演奏会のメイン第九。
一言でいえば速くて引き締まった演奏。ベルリンフィルでいえば、アバドの全集の第九と基本的な骨格は非常に似ていると思う。ムーティの第九もそうだが、その遥か源流には、かのトスカニーニの演奏がある。終楽章の一番最後のFreude Schöner Götterfunkenのところの、やや不自然なくらい正確なリズムなどがその典型。
モーツァルトのハフナーあたりだと、途中でふっとテンポを緩めたりといった遊びもあったが、べートーヴェンのこの曲ともなると直球勝負でそういうこともない。
何か特別新しいもの、強烈な個性があるわけではないが、ベルリンフィルの新たな時代の幕開けらしい、この2020年代に向かう現時点での高水準の第九ということだと思うものの、特に終楽章など、テンポが速いために十分歌い切れていない箇所もあったと思う。つい、カラヤンやバーンスタインの、もう少しゆとりのあるテンポの第九を懐かしく思ってしまう。
歌手陣のなかでも、バスのKwangchul Younは特に良かったと思う。あの大植のバイロイト・トリスタンでも、素晴らしいマルケ王を歌っていたと思うが、顔は初めてみた。なかなか整った良い顔だなと思った。