カラヤン・ベルリンフィル マーラー第九(1979年(スタジオ録音))

昨晩ノット・東響のマーラー・一番の映像を少し観たせいで、聴きたくなってしまったものだが、やはり、爽やかだが若く薄味の本年モノの白ワインのような「一番」ではなく、経年変化でこってり重く渋みにも欠けぬ赤ワインのような「第九」を選ぶ。マーラーの両曲の間は、ベートーヴェンの「第一」「第九」と同等以上の距離があると思う。

この曲も先般バーンスタインの録音を何種類も立て続けに聴いたので、今日はカラヤンの1979年のスタジオ録音盤。

この録音を通して聴くのは久しぶりだがやはり凄かった。

第一楽章は変幻自在のバーンスタイン流と違って、律儀で逆にどこかぎごちないが、第二、第三楽章は、ベルリンフィルの強靭な合奏力が、変な喩えだが、メカニカルな正確さと重い響きで、超合金のロボットを思わせる格好良さ。

中高時代の音楽教師が「カラヤンマーラー九番は第二、第三楽章がいい」と言っていたが、あらためてその慧眼に感心する。

そして第四楽章のアダージョ。あの、黒檀のように光る、全盛期のカラヤンベルリンフィルの弦の音! 特にチェロ・コントラバスは、強奏の度にギッと、松脂の粉が弓から飛ぶような迫力ある音を出しているが、これはマイクが楽器に近いスタジオ録音ならではの長所だと思う。1982年のライブ録音盤ではこういう音は聴こえてこない。

後半の最大の見せ場の金管セクションによる最後の審判のような場面の後、弦楽器だけが残って天に向かってHの音を長く伸ばすところ(122小節目)。ここはカラヤンは、全弦楽器の弓のアップダウンを1ミリの狂いもなく完全に合わせることで、異常な効果をあげる。

本当に凄いと思うが、嫌いな人は、人工味が過ぎるといって嫌うだろう。逆に、バーンスタインの演奏では、ここでは大抵気持ちが先に行って、弦楽器の弓遣いが完全に合わない。それが却って、必死な叫びと真実味を感じさせるが、この部分の純粋に物理学的な音の威力はやはりカラヤンの方が遥かに凄い。

前にも書いたが、カラヤンのこの曲の録音としては、一般には1982年のライブ盤の方が評価が高いと思うが、自分個人は、この1979年版の方が、録音のオンマイク具合が当時のこのコンビの合奏力の凄さをよりよく捉えていて好きだ。