ルービンシュタインのショパン

1985年のショパンコンクール優勝者のブーニンの記念CDが発売になっているらしい。日本でのブーニン騒ぎから30年も経つのかと考えると感慨深い。その後、当時のコンクールでは5位だったマルク・ルイサダの方が活躍していて、ブーニンの活動はあまり聞かないので、人生どうなるか分からない。ブーニンは、当時19歳だったので今年49歳。昔から何だか若年寄みたいな顔をして老成した雰囲気だったが、実際はまだまだ若いので頑張って欲しいと思う。
 
といいつつ、今、聴いているのはアルトゥーロ・ルービンシュタインショパンである。30年前のブーニン騒ぎの頃からCDは持っていたが、その頃は、荒っぽいけどビリビリ痙攣するようなブーニンのものとか、妙に作りものめいていてピアノから実に人工的というか不思議な響きを出すホロビッツとか、スーパーカーでハイウェイを行くようなポリーニエチュードとか、そういう個性的な演奏に魅かれ、ルービンシュタインのものは、きちんとはしているけど若干退屈な印象を受けていた。でも、今聴くと、全てが収まるべきところにピタッと収まり、一ミリも揺るぎようがない安定的な姿で、でもショパンらしい情緒にも欠けず、常に美しい響きと、まさに言うことがない演奏。今や世界的にも評価されているサントリーの山崎ウィスキーの往年の名コピー「何も足さない、何も引かない。シンプルだけど奥が深い。」がピタリと当てはまるような音楽になっている。
 
(華麗なる大円舞曲)
 
もっとも、アマチュアでも弾こうと思えば弾けてしまう曲が少なくないショパンの音楽で「何も足さない、何も引かない」「余計なことはしない」というのは、却って大変なことなのかもしれず、この一見物静かな演奏の向こう側に、この世紀のピアニストの豪気さが見え隠れするような気もしている。