ブルックナー 第四番の名盤   上岡、ヨッフム、朝比奈、クナッパーツブッシュ

上岡敏之さんのブルックナー。先日、第七番について先日書いたが、第四番も同じヴッパタール交響楽団との録音が出ている。
http://www.octavia.co.jp/shop/exton/005870.html

 

第四番は、第七番に比べると正直中身がそれほどしっかり詰まっている音楽ではないので、案の定というか、上岡さんも第七番とは異なるアプローチ。かなり快速なテンポでグイグイ飛ばすところは飛ばしている演奏。でも、そこは流石に、普通の演奏だと気がつかないで流してしまうところで、いろいろと凝りに凝った表情をつけている。

 

たとえば、第一楽章冒頭のホルンでの狩りの角笛みたいな音楽が変ホ長調でわっと盛り上がっていくところは誰もが「これでもか」という感じでやるが、その後、全休止の後に始まる第二主題の小鳥のさえずりみたいなテーマから始まる部分は、割と地味というか、次の盛り上がりまでの「繋ぎ」みたいな感じの部分で通常あまり印象に残らない。この演奏では、そういうところについて、いろいろと凝った表情で音楽的にやっている。同様に、第二楽章とか、第四楽章でも冒頭盛り上がった後のやや嘆き節みたいな第二主題のところとか、割と地味なところが面白い。

 

逆に、第一楽章の終結部とか、第三楽章のスケルツォとか、通常この曲の聴かせどころである、ドイツの中世の狩りの音楽を思わせるようなド派手な部分は割と普通というか、控え目である。控え目というより、こういう親しみやすいがやや単純な音楽というのは、上岡さんはどこか肌に会わないところがあるのかな、一人の聴き手としては、勝手に思う。

 

ブルックナーの第四番だと、あまりあれこれ考えず、頭から突っ込んでいくみたいな感じの演奏の方もいろいろある。たとえば、ヨッフムが60年代にベルリンフィルと録音したもの。変な喩えだが、サッカー好きのドイツの親爺が缶ビール片手に「Tor!(ゴール!)」と叫んでいるみたいな肉体的なノリと躍動感がある。変ホ長調ベルリンフィルのホルンセクションがボーと吹きまくっていたり、サッカー選手がゴール目指して一気に駆け抜けるようなダイナミックなアッチェレランド(テンポの加速)があって楽しい。あのフルトヴェングラーのもテンポのダイナミズムは大体同じだが、情念に揺さぶられるようなフルトヴェングラーのものよりも、ヨッフムのはもっと肉体的というか、ストレート。ヨッフムと言えば、オルフのカルミナブラーナの有名な録音があるが、ああいう感じに近い。

 

日本人も負けてはいなくて、朝比奈隆が大阪フィルを振った演奏も、さすがにヨッフムのようなゲルマン的・動物的なエネルギーの放射はなく、品格を保ってはいるけど、ホルンをはじめ各奏者に大らかに吹かせて、曲の自然なエネルギーを感じさせる。

 

 

傾向は更に違うが、極め付けがクナッパーツブッシュのもの(1944年ベルリンフィルとのライブ)。昔のもので録音も悪いので、ホルンその他のオケの響きの美しさを味わう楽しみはないが、聴いていて忘れられない瞬間がある。第4楽章の冒頭からじわじわと盛り上がっていって、やがてシンバルを一撃しつつ頂点に達する部分があるが、その盛り上がり方が狂気じみていて凄い。これまた妙な喩えだが、昭和の頃には、まだ、戦争がえりのジジイというのがいて、日頃は好々爺風でいるが、いざ怒ると凄まじい、「さすが戦争に行って帰ってきた人は違う」という感じの人物がいたが、そういう感じ。クナッパーツブッシュの演奏のこの部分を聴くと、何故かそのことを思い出す。(Youtubeにもあったのでご関心の向きは45:00あたり(あるいはもう少し前から)から聴いて確かめてみて頂きたい)。
https://www.youtube.com/watch?v=eMDUq7eddTk

 

結局のところ、第四番というのは、第七番以降に比べると、単純な性格の音楽という気がする。ワインでいうと、今年出来立てが旨いウィーンのホイリゲのようなもの。第七番以降は、熟成させるとどんどん味が深まるボルド―その他の赤ワインということか。

 

上岡さんのブルックナー新日本フィルとのコンビで昨秋の第九番のライブに加えて、昨年春の第六番も最近発売されたとのこと。これも、実演では大変に堪能させる素晴らしい演奏だった。CDでも確かめてみたい。

 

https://tower.jp/article/feature_item/2019/05/24/1108