上岡敏之・新日本フィル ブルックナー第六番

(2018年4月の書き込み(備忘)>

昨晩は不意に上岡敏之指揮の新日フィルの演奏会へ。ピアニストにフランスの女流ケフェレックさんを迎えたモーツァルトの24番のコンチェルトとブルックナーの隠れた逸品「第六交響曲」と素晴らしいプログラム。

モーツァルトの24番は、この作曲家の中の数ある作品の中でも最も暗く激しい情熱が爆発する音楽で、一楽章などは煉獄の火がメラメラと燃え上がるような演奏が多いように思いますが、ケフェレックさんのはさすがパリジャンヌというか、舞台マナー同様に常に気品を失わない典雅な演奏。それに合わせてと思うのですが、上岡さんのオケも激しさというよりは、何か見えない不穏な空気の壁がこちらに押し出してくるような、少し不思議な印象の演奏でした。

後半のブルックナーは、上岡ワールド全開。この曲の売りの強烈なブラス、ティンパニはもちろん、低弦が実に分厚くて、ドイツ・オーストリアのロマン派音楽を聴く醍醐味ここにありという感じ。上岡さんがブンブンと指揮棒を振り降ろすと、コントラバスとチェロからすごい音量のピッチカートがヴォン、ヴォンと唸って、堪能させられました。

今回は、上岡さんのこだわりでしょう、ヴェス版という名前も初めて聞く校訂版での演奏でした。強弱の指定等、随所に違いがありましたが、3楽章のトリオが一番異なり、聴感上はテンポが通常より相当ゆったりした感じ。通常のノヴァーク版の場合、トリオは何となく唐突な感じで始まって、いつも、言いたいことがよく聞き取れない間にあれあれっと話が終わってしまうような感じがするのに比べると、このヴェス版は随分と音楽の中身が楽しめるような感じがしました。また、フィナーレの最後のティンパニの連打が、音符がたくさん足されて、何か凄いアクロバティックな名人芸(バンドのドラムのソロみたいな)のような感じになっていたような気がしましたが、気のせいかもしれません。

新日フィルの演奏会は大体そうですが、この夜も、ブルックナーがとてつもない大音量で終わった後、残響が消えて、その後もしばらく沈黙が続いて、おもむろに拍手が始まる感じもいいですね。偶然というより、上岡さんが、振り終わった後、凍り付いたように緊張感を保ったまま動かないことで、意図的に、興ざめなフライングブラボーを許していないという感じがします。

新日フィルのいつもながらの大サービスのアンコールは、ブルックナーと同じイ長調モーツァルトの29番交響曲のフィナーレ。ブルックナーのための大編成の弦でやるモーツァルトはこれまた響きが豊かで、大好きなベームカラヤンの演奏を思い出しました。テンポ・リズムさえ良ければ、大編成でもモーツァルトは決して緩んだものにはならないのです。

それでも、今回はやはりやや通好みの渋めのプログラムだったということでしょうか、演奏のクオリティを考えれば超満員であって然るべき演奏会ですが、随分と席が空いていて心が痛みました。確かに他にもよい演奏会が多い東京ですが、これだけ頑張っている団体、もっとお客さんを動員できるといいのですが、どうすればいいでしょう。