上岡敏之 新日本フィルとのブルックナー第七番が楽しみ

昨年、上岡敏之さんが新日本フィルとの定期でブルックナーの第9番を取り上げて、ライブのCDも出て、賛否いろいろ評判となったが、今シーズンにはいよいよブルックナーの第7番を取り上げるらしい。演奏会が来週に迫ってきた。

 

上岡敏之さんのブルックナーの第七番と言えば、ヴッパタール交響楽団とのCDがこれまた史上最遅・最長との評判を聞いていたので、初めて聴いてみたが、これは凄いと思う。

 

少なくとも分かる範囲の記録では、晩年のチェリビダッケを凌駕するこの曲の最遅のテンポ、最長演奏時間(90分)だが、問題は中身。奇をてらうのは論外として、思い入れのみで極端に遅いテンポというだけでは、ちょっとどうかと思う。

 

世評の高いバーンスタインの晩年のマーラーの復活交響曲の最後の合唱や新世界交響曲の第2楽章なんかは、指揮者の思いは分からなくもないが、元々の作曲された音楽に何か濃い内容のものが凝縮されている訳ではないので、遅すぎるテンポで間延びしてしまっていると思う。これらの曲の価値が低いという意味ではなくて、普通に演奏されているようなテンポでやる方が音楽の「旨み」が味わえる配分ではないかという意味である。ウイスキーでも、一番美味しい水割りの配分があると思うが、それと同じような話。

 

上岡さんのブルックナー第7番では、その遅いテンポで、スコアの細部に普段は聴こえてこない実にいろいろな「音楽」が聴こえてくる。もともと密度濃く、いろいろな内容が書きこまれていた音楽だと分かる。この徹底したゆっくりしたテンポでやることで、それらが溶け出してきて、初めて味わうことができたという感じがする。あえてこのテンポでやる意味がある音楽だと感じる。

 

冒頭のチェロとホルンの第一主題からして、こういう風にゆっくり静的にやると、本当に冬の弱い日差しの空にアルプス山々の白い頂きが静かに浮かんでいる情景が目の前に浮かぶようで、と陳腐で詩的な表現を使いたくなるくらい素晴らしい。

 

ただ、楽団員にとっては非常にチャレンジングなテンポだと思う。弦楽器なら弓が、管楽器だったら息が続かない、はっきり言えば、とても難しい無理なテンポだと思う。

 

ヴッパタール交響楽団は当時の手兵とは言え、本場ドイツのプロの楽団相手に、ブルックナーの音楽でこれだけのことをやらせきる、しかも一回限りの演奏会ではなく、後世まで残るCDの録音でやらせてしまうというのは凄いことだと思う。

 

上岡さん、新日本フィルとの定期で、昨シーズンはブルックナー第九番で各方面のいろいろと評判を呼んだが、今シーズン、いよいよこの第七番を取り上げる予定。楽しみである。