ドヴォルザーク・チェロ協奏曲

ドヴォルザークのチェロ協奏曲。何となく昔から馴染んでいるせいもあって通俗名曲という感じがしてしまっていたのですが、19世紀後半に西洋音楽が達した異常な高みの一つを画するような作品であると実感します。

そんなに難解なものは何一つないのですが、
・全体にただよう諦観
・それにもかかわらず、少しでも善なるものを成し遂げようとするようなヒロイックな気分
・はるか遠く、届かないものへの思い(それが故郷のことなのか何なのかは分かりませんが)
・春の満月の夜更けを散歩しているときのような、静かで充溢した気分
といった様々な人間の感情が、独奏チェロと金管木管、弦楽器とその組み合わせで40分もの間、次々と休む暇もなく描かれる様子は、圧巻としか言いようがありません。

特に、ここでいうヒロイックな気分というのが、ベートーヴェンの「エロイカ」のような超人的・世界史的英雄といったものとはまったく違って、その辺りにいる、少し草臥れた中年のおじさんが、「もういっちょ、世のため(あるいは家族や自分のためかも分かりませんが)頑張るか」といって立ち上がっているような感じというのでしょうか。しかし、そこに何か大変な人生の厚みを感じるものがあります。少し違うのですが、分かりやすいもので似たものを探せば、フーテンの寅さんに感じる人間的魅力といったらよいでしょうか。西洋音楽の中でもこういうことを感じさせるのは、自分の知る限りでは、ドボルザークブラームスのいくつかの作品だけです。