ハンス・スワロフスキー  N響 ザ・レジェンド

(2018年3月の書き込み(備忘)>

土曜夜のFM放送番組、N響ザレジェンドで、70年代初めのハンス・スワロフスキーの公演記録を聴いた。スワロフスキーはアバドやメータを育てたウィーンの名教師としてのみ知るだけで、演奏を聴いたことはなかったが、いやお見逸れしましたというか、演奏家としてもとてつもない存在だったことを体感。
特にエロイカ。正統派の美というか、何一つ奇抜なことをしていないのに、全てがピタッと収まるべきところに収まる感じ。しかも、各楽器の音の分離が異常に良くて、その点の印象ではセルとクリーブランド管の録音に似ているが、セルのように潔癖さが前に出るというよりは、もっと自然体。喩えて言えば、背筋がピンと伸びて、手足もすらっと長いハンサムな紳士が、隙一つ無いスーツ姿で、微笑を浮かべながら歩いていくような感じ。極東のオケに初客演して、ささっとこういう演奏をしてしまうなんて、どんだけ凄腕だったのかと思う。

番組では、その数週間前にはスクロヴァチェフスキのモーツァルト交響曲集というのもやっていて、これもなかなかの内容。これはずっと最近の演奏会で、近年流行のオケをうんと小さな編成にした「時代考証を意識した演奏(historically informed performance (HIP))」スタイルによるもの。個人的にはHIPによるモーツァルトベートーヴェンは薄味の病院食を喰わされているようで好きではないが、このスクロヴァチェフスキ・N響の演奏は悪くないと思った。とりわけジュピター交響曲の終楽章は大いに燃焼感があって、インターネットのベルリンフィルのデジタルコンサートホールの宣伝でしきりに出てくる、ラトル・ベルリンフィルの同じ曲の演奏(これもHIPスタイルによるもの)にも劣らないように感じた。

その前の週にはサヴァリッシュブラームスの4番とかやっていて、これは録音がうまく行かずに、ほんの一部しか聴けなかったが、「サヴァリッシュ教授による大学でのご講義」といった真っ当で正当な演奏を期待していたら、一楽章で弦の細かなフレージングをいじくったりしていて、サヴァリッシュってこんなメソメソしたことをやる人だったんだと意外な感じ。ぜひ全曲聴きたかったところ。

この番組、今週はスヴェトラーノフラフマニノフ、来週は中村紘子さんの協奏曲集と引き続き目が離せない。