朝比奈隆というとブルックナー、それからベートーヴェンという感じで、同じ曲について新旧何種類も録音が出ていると思う。他方で、ブラームスは間違いなく重要なレパートリーだったはずだが、その録音については意外に印象が薄い。
最近SACDとして出た朝比奈隆=大阪フィル(79~80年)のブラームス交響曲全集。大変失礼だが「馴染みの定食屋のハンバーグ定食」を頼むような気分で、それほど期待もせず、第一番の冒頭をかけてみたところ、これが凄かった。
ドンドンドンとティンパニが鳴り渡るなか管弦楽が、あたかも、頑固親爺が率いる大フィル軍団が「俺のブラームスを聴いてみろ」と迫ってくるような熱気。
最近のN響や都響等、日本のオーケストラは技術的には当時の大フィルよりずっと上手くなったと思うが、こういう熱い演奏はあまり聴かないような気がする。
このセットは残念ながらSACDシングルレイヤーなので、普通のCDプレイヤーでは再生できない。いつか、もっと多くの人が聴けるように、通常のCDでも聴けるフォーマットで発売してほしい。
どうも最近は世界中の動向に常にアンテナを立てて、諸事バランスをとりつつ器用に機敏に仕事をする傾向がどの分野でも多くなった気がするが、こういう、どんと座って、頑迷固陋と言われようと、右往左往せず自らの所信を貫くといったところももう少しあってもよいように思う。