【バーンスタインのマーラー第九②】カラヤン執念の東京リハーサル?

徳岡直樹氏のオーラルヒストリー探求恐るべし。バースタイン・ベルリンフィルによるマーラー第9(1979年10月4,5日)に関連した追加情報。

(注)この話題に触れた徳岡氏の動画は、残念ながら徳岡氏のページがYoutubeからニコニコ動画に移転した際に消去されてしまった模様。

徳岡氏の打楽器の師匠という岡田氏(元N響の打楽器奏者とのこと)という方の証言。バーンスタインとの演奏会の直後、1979年10月に来日したカラヤンベルリンフィルの来日公演で、打楽器のエキストラとして参加した岡田氏。

この来日公演は、帝王カラヤンの絶頂期らしく、普門館という巨大ホールで、ベートーヴェンの第九、モーツァルトヴェルディのレクイエム、シュトラウスツァラトゥストラムソルグスキーの「展覧会の絵」等々、豪華絢爛プログラムを連日行うという、それ自体、伝説的なものである。

そのさなか、79年10月19日の本番の日に「展覧会の絵」のエキストラの打楽器奏者として岡田氏が宿舎の京王プラザホテルの大会議室でのリハーサルに向かったところ、「展覧会の絵」はそっちのけで、全然別の曲を練習している様子で、結局、呼ばれなかったという。「展覧会の絵」は、本番の会場でのゲネプロで通しただけだったという。ここまでは岡田氏の証言を信じるなら「事実」。

残念ながら、岡田氏から、この日に京王プラザでさらっていたのが「マーラーの第九」だったという直接の証言は得られていないようだが、徳岡氏は、その後のベルリンフィルの日程で、カラヤンが当日本番の曲をそっちのけでリハーサルを必要とする演目が他にないことを根拠に、日本の帰国後の11月22,23日に、カラヤンとして生涯初めて取りあげた「マーラーの第九」のスタジオ録音のリハーサルをしていたのではないかという仮説を立てている。

この妄想の逞しさが好きである。

徳岡氏は、さらに、当時の小澤征爾のインタビューから、70歳過ぎてマーラーの第九を勉強しはじめたカラヤンとこの曲についていろいろと話をしたというエピソードを発見。カラヤンベルリンフィルの日本からの帰国直後の11月12日にベルリンフィルを振った小澤征爾が、その際にカラヤンと会った際の話ではないかとして、その直前の来日中に「マラ9」をさらっていたことの状況証拠とする。刑事裁判なら証拠不十分だろうが、どうだろうか。

ちなみに、この79年11月のカラヤンベルリンフィルの録音、一般的には不評で、1981年に再録音したライブが絶賛されているが、自分自身は、案外、79年のスタジオ録音、カラヤンのスタジオ録音らしい、オンマイクの録音が好きで、高く評価している。発出時のこの虹のジャケット写真も、カラヤンの横顔アップの1981年ライブのジャケットよりもいいと思う。