「黒幕」と白鳥の湖

ここ数日ホワイトハウスの「黒幕」の失脚の可能性について話題になっているが、この「黒幕」という言葉を聞いて、いつも思い出すのが、20年近く前にベルリンの国立歌劇場のバレーでみた「白鳥の湖」の公演である。ヒロインのオデット姫と侍女たちは悪魔の力で白鳥に変えられてしまっているのだが、この公演の演出では、有名な情景のシーン、湖でオデット達と初めて出会う場面をはじめ、要所要所で、舞台後ろのカーテンの後方で大きな翼が不吉に開閉するのが見える(youtubeでは43:161:18:10あたり)。ビデオではかなり明瞭な黒い影になっているが、実演では、カーテンの向こうで開閉しているのがかすかに見えるかどうかぐらいの感じで、観客にとっては「何かはっきり分からないが気になる」といったくらいの見え方だったと思う。背後から魔術の力を働かせて、舞台の表側の状況を操っているという感じがよく出ていたと思う。

 

それが物語の大詰めになって、ジークフリート王子が悪魔と直接対決する場面になって、巨大な羽をもった悪魔が突然姿を現し、羽を大きく開閉しながら襲い掛かってくる(2:25:52あたり)。実際の劇場ではごく一部の特等席を除けば視界が限られているので、このビデオのように悪魔が舞台の左袖から出てくるのは見えず、ジークフリートが倒れている間に気が付くといつの間にか舞台の中央に立っていたという感じだったと思う。この姿こそ、自分にとって視覚的に表現された「黒幕」「この世の悪」そのもののイメージである。

 

ベルリンにいたのは19992002年の間なので、実際に自分が観たのはこのyoutubeの録画(1998年)の数年後の公演で、記憶では、ジークフリートが闘いの中で、この悪魔の巨大な羽をもぎ取り、悪魔が断末魔の姿で床の上でもがきながら息絶えたと思うのだが、このyoutubeではもう少しスマートな結末となっているので、記憶違いかもしれない。

 

チャイコフスキーは「くるみ割り人形」や「眠れる森の美女」もよいが、やはりこの最後の大演壇(舞台と併せてドラマティックな音楽)を考えると「白鳥の湖」が自分にとっては最高の作品である。