2017年バイロイト パルジファル 感想

 

バイロイト2016年からのパルジファル演出はモスクがでてきたりと過激だったらしいが、2017年の音だけをNHK-FM放送録音で聴く。各歌手とも好調の上、ヘンヒェンの指揮がこの複雑なスコアを手堅くまとめていて、実はかなり名演ではないかと思う。

もともとこの公演は、今、売れっ子のアンドリュー・ネルソンスが振るはずだったところ、直前に突然の降板をし、スター指揮者の代役という損な役回りを引き受けたのが、ヘンヒェン。日本にも来て活躍しているようだが、私はこれまで聴いたことはない。そもそも、ヘンヒェンというとドイツ語でニワトリという単語と発音が同じで、名前だけ聞いて勝手に冴えないイメージを持っていたが、かつてのカイルベルトを彷彿とさせる、引き締まったドイツの匠といった感じ。二幕の終わりの彼の地では珍しい熱狂的な拍手は、演出ではなく、熱演の歌手二人と彼の率いるオケに対するものではないかと思う。

それにしても、この作品、音楽も台本も、聴けば聴くほど、また、こちらが歳を取っていろいろな経験を積めば積むほど、多くのことを感じ、考えさせるものが入っていて、汲めども尽きない泉のようで、一人の人間による創作であることが殆ど奇跡のような感じる。更に、実演では、各プロダクションの製作の度に、演出家が腕を振るって、イスラムとの対立なり、ナチス時代の歴史なり、作曲家の精神分析なりを材料に、いろいろな読み替えや二重解釈をやったりと、誠に知的に興味が尽きることがない。

 

ワーグナーの作品自体が象徴主義的かつ普遍的で、シンボルに具体の事象を当てはめるといくらでも応用が利く構造になっていることが大きいのだろうが。