フルトヴェングラー・ローマ放送響「リング」(1953年)

今日もしつこく「ニーベルングの指輪」。

今度は、1953年のローマ放送のオーケストラと放送用に録音したフルトヴェングラーの二番目の録音。これは、昔、ミュンヘンに住んでいたときに200マルク(1万4000円)くらいで買った。当時としては痛い出費だったが「一生楽しめると考えれば安い」と思い切って買い物をしたことを思い出す。

昨日まで聴いていた1950年のスカラ座との録音は、天才的な一筆書きというか、インスピレーションの赴くまま筆を走らせ、それがピタッとはまるべきところにはまっているといった神業的な演奏。

今回のローマでの録音はそれとは随分印象が違う。一言で言うと、客観的で落ち着いていて滋味が濃い。ワーグナーの音楽は懐が深くて、1950年の演奏はもちろん素晴らしいけれど、一気に勢いで持って行っている分見えにくくなる部分があって、1953年の演奏ではそこが良く見える。これが、クナやベームカラヤンで聴くとまた違う面が出てくるので、全く、幸せな無間地獄みたいになってキリがなくなるのだが。

このローマでの録音をめぐっては、早い時期から商業用レコード化する構想があったにも関わらず、20年近くたった1970年代まで実現しなかった。背景には、EMI、フィリップス、ドイチェ・グラモフォンという大手レコード会社それぞれの思惑があり、あたかもこのオペラの「指輪」をめぐる神々と巨人、小人族の争いを思わせ、面白い。「夫の芸術的遺産を世間で幅広く聴いて欲しい」として早期のレコード化を希望していたフルトヴェングラー未亡人はさしずめブリュンヒルデの役回りといったところか。

最終的にはEMIから発売されることとなったが、ある人のブログで、この顛末を書いた1972年の独Spiegel誌の記事を知った(日本人のマニアの人は本当に凄いと思う)。特にドイチェ・グラモフォンがローマ放送から権利を取得した後、急遽方針を変えてレコード発売をやめたが、その背景には、同じレコード会社でのカラヤンの「指輪」の録音プロジェクトの存在があったという。

フルトヴェングラーカラヤンは、それこそヴォ―タンとアルベリヒと同じくらい不倶戴天の仲だったが、ここでもカラヤンが出てくるのが興味深い

https://www.spiegel.de/spiegel/print/d-42805177.html