【バーンスタインのマーラー第九⑥】東大オケのマーラー第九(1)

必死のパッチで入手したアムステルダム・コンセルセルトへボウ管弦楽団とのマーラーの第九のCD。当時一聴して何より驚かされたのは、その悠然たるテンポ。初演者のブルーノ・ワルターの演奏時間と比較すると一目瞭然。

バーンスタイン・コンセルセルトへボウ(1985年):89分02秒

ワルター・コロンビア交響楽団(1961年):81分05秒

ワルターウィーンフィル(1938年):69分41秒

今から思えば、80年代はマーラーに限らず、また、バーンスタインに限らず、古典派・ロマン派音楽の演奏は、機械的な正確さから、より深い情緒、一言でいえばよりロマンチックな方向にシフトしていく流れが頂点に達していた時期で、上記の演奏時間の推移もその一環と思う。

CDを入手して約1年後、高2の頃だったと思うが、同級生の姉君が出演する東大オケの演奏会でこの曲をやるというので、聴きに行った。自分にとってのこの曲を初めて生演奏で聴く機会となった。

その時のパンフレットは指揮者の早川正昭氏が自ら執筆したものだったが、ちょうど上記の3つの録音の演奏時間について紹介があり、「自分(早川氏)は初演者ワルターの1938年の演奏スタイル・テンポへの回帰を目指す」といったことを書かれていたと思う。実際の演奏時間は覚えていないが、今思えば、80年代でも既にバロック音楽モーツァルトの演奏では市民権を獲得し、90年代以降はベートーヴェンやロマン派音楽の演奏でも大きな流れとなる、HIP(historically informed performance。作曲・初演時の演奏スタイルを意識した演奏)に近い考え方だったと思う。