クライバーの運命ライブ(1978年、シカゴ響)
大学時代、先輩からCDを借りて一聴驚愕した懐かしの録音。
クライバーのベートーヴェンのライブといえば、第七番と第四番が、日本の人見記念講堂でのものをはじめ多数残っているが、運命(第五番)はこのシカゴ交響楽団との1978年のものしかないのではないか。
あの、あまりにも有名なウィーンフィルとのスタジオ録音の数年後のもので、基本的なスタイルはほとんど変わらないが、やはりクライバーのライブだけあってドライブがかかって更に壮絶な演奏。
今年はベートーヴェン生誕250年。世界中のプロの音楽家の方々に訴えたい。そろそろここ四半世紀くらい流行している、小編成でこじんまりとまとめた座敷犬みたいなベートーヴェン演奏はやめて、そろそろ、こういう狼のような野性味あふれるベートーヴェンに戻りませんか。
一緒に入っている「魔弾の射手」序曲も、例の後半の急に長調の和音が響く部分の、天井が抜けるようなフォルテッシモの部分など凄い。クライバーが、あの輝くような笑顔で指揮棒を振りまわしている姿が目に浮かぶ。
クルレンツィスの運命2
クルレンツィスの運命交響曲。先週、トレイラーがないのかと言っていたら、ネット上で、ごく一部だが画像があった。といっても、今度発売予定の録音ではなく、4年前のベルリンの地方テレビの企画の映像。
オケの前で、いかにもベルリンらしい、風変わりなコンテンポラリー・ダンス・パフォーマンスが繰り広げられる。そもそものクルレンツィスの指揮と、立って演奏する彼のオーケストラのバイオリニストたちの動き自体が前衛ダンスのようなので、その延長のようにも見えなくもないが。
演奏自体はこの4分ほどの断片ではよく分からないが、最近のhistorically informed performanceと違って、バスの音がきわめて部厚いこと。チェロやコントラバスの人数がそんなにいるようにも見えないが、バババーンと凄い音を出している。
そのことで、この手のスタイルの演奏が陥りがちな、低音不足の貧血気味の頼りない響きにならずに済んでいる
もっとも、会場自体が正規の音楽ホールというよりは、何やらアングラ劇場みたいなところで、響きも残響が少なく、デッドな感じ。今度出る正規録音は感じがかなり違うかもしれない。
ネルソンスのブルックナー ちょっと聴いてみての感想
今年のニューイヤーコンサートにも出演したネルソンスがゲヴァンドハウスのオーケストラと録音したブルックナーの第9交響曲の入ったセットをレコード店でつまみ聴きした。
ネルソンスは生で聴いたことはないし、ボストン交響楽団とゲヴァンドハウスのオーケストラを使って、ブルックナーとかショスタコーヴィチとかの新譜を毎月のように恐るべきペースで出してくる超売れっ子指揮者というイメージしかない。結構評判にはなっているようだが。
そんな感じで、これまた、あまり期待もせず第9の始めだけかけてみたが、冒頭のニ短調の弦のトレモロの響きの分厚さに圧倒された。とりわけ、クレッシェンドしていく中で、特に低弦のトレモロが、たとえばラトルのベルリンフィルみたいに一人の奏者が弾いているようにピタッと揃っているというよりは、何となく微妙にズレがあるような感じで、それが却ってブォーンという響きになって、大げさに言えば、宇宙全体が共鳴しているような神秘的な印象を受けた。
ブルックナーの第九といえば、先般、上岡敏之=新日フィルの演奏会に行き、かなりユニークな解釈で面白いと思ったが、このゲヴァンドハウスの録音のような響き自体の物理的に圧倒的な力というのは残念ながら向こうの楽団に一日の長があるというか、おそらくは半永久的に埋まらないように思う。
楽器の質、奏者の体格、ホールの響きの特性が相まってああいうことになっているのか。誰か、物理的な音響の特性とかを、ブルックナーの第九の同じ部分を科学的に比較研究して、違いがどこから来るのか教えてほしい。
バレンボイムのベートーヴェン演奏への評価 2017 年秋のFinancial Times紙での論争
― このクラスのアーティストの場合、人々は本当に演奏を聴いているのか。それともかつての栄光の思い出を聴いているのか。(With artists of this stature, do people actually hear the performance? Are they listening to memories of former glory? )
― バレンボイムには自分が思うがままベートーヴェンを演奏するのも許されよう。しかし、ひょっとすると、もう潮時かもしれない(he is entitled to play Beethoven however he likes. But perhaps it is time to move on.)
と散々な書かれっぷり。
チェリビダッケのモーツァルト交響曲第35番「ハフナー」
チェリビダッケ・シュトゥットガルト放送交響楽団のブルックナー・アルバムの中におまけのように入っているモーツァルトのハフナーが凄い。
例の第一楽章の冒頭の跳躍するテーマ(レー(レ)レーレ ド、ド)のレーがふわっと風が舞い上がるように始まり、その後のド、ドの、二回目のドが軽く短くなっていて、それだけでこのテーマがこれまで聴いたことがないくらいチャーミングになっている。
その後も、全体に非常に速めのテンポと弾むリズムの快演。仔犬が散歩で喜んで跳ねまわっているような感じとでも言うのか。
アマゾン・プライム会員はただで聴けるので、モーツァルトが好きな方は、冒頭の1分だけでも試しに聴いてみられるとよいと思う。